TODAY IN MUSICAL MARGINS
カルロス・ゴメスが、
「ロンドンのチーズ」になるのを
恐れた日。

英国を舞台にしたオペラを続ければ、自分は「ロンドンのチーズ」になってしまう。カルロス・ゴメスは、出版社へそう書きました。
1877年8月25日、ブラジル出身の作曲家アントニオ・カルロス・ゴメスは、ジェノヴァ近郊のペーリから、出版社リコルディのジュリオ・リコルディへ手紙を書きました。当時取り組んでいたのは、ヴィクトル・ユゴーの戯曲をもとに、16世紀イングランドの女王を描くオペラ《マリア・チューダー》です。
手紙でゴメスは、《マリア・チューダー》をその年の冬のシーズンに間に合うよう仕上げると報告しました。そのうえで、次の題材候補「ラ・マスケラ」には、今のところ曲を付けるつもりがないと説明。理由は、自分が「ロンドンのチーズ」になるのを恐れているからでした。
もちろん、本当にチーズになる話ではありません。ゴメス自身が続けて「《マリア・チューダー》の後は、英国と何の関係もない題材で仕事をしたい」と書いているため、英国ものばかりの作曲家になることを嫌った、本人流の奇妙な比喩と読めます。世界で勝負していたオペラ作曲家にも、次の題材が自分の看板を決めてしまう心配がありました。
ORIGINAL LETTER
「ロンドンのチーズ」が登場する手紙を、読んでみる。
リコルディ歴史文書館で、1877年8月25日付書簡の目録情報とイタリア語全文を確認できます。
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出典・参考
- Archivio Storico Ricordi, Antônio Carlos Gomes to Giulio Ricordi, 25 August 1877
- カンピーナス市公式カルロス・ゴメス資料「Maria Tudor」
- OPUS「Bel canto na escrita de um compositor de transição」
本記事は、リコルディ歴史文書館が公開する1877年8月25日付書簡の転写と、《マリア・チューダー》に関する公的・研究資料をもとに、日本語で要約しています。「ロンドンのチーズ」は、書簡中の「fromaggio Londrino」を直訳した表現です。比喩の厳密な意味は資料から断定できないため、直後に記された「英国と無関係の題材で仕事をしたい」という本人の説明に即して紹介しています。